椅子張りというテキスタイルがある。
昭和は、椅子張りの代名詞だったと言っても過言ではない、モケット全盛の時代だった。
新規でつくる椅子も、張替えも全部モケット。 喫茶店、スナック、パチンコ椅子でも粗100%使っていた。 当時のサンプル帳を見ると、90%がモケットだ。 そんなに種類が要るのか?という位だが、そんな理由を書きとめたい。
というのも、3月から改めて、モケットの取材をすることが昨年から決定して、いよいよカメラマン、インタビュワーなど取材班を組みはじめたところです。
私が椅子張りの企画で最初にモケットに携わったのは、洗えるモケットで、かなりキワモノになってしまっていた時代。 それまでは、パイルにアクリル糸を使っていたが、皆が避けていたポリエステル糸で織り、ポリエステルの特性である Washable ウォッシャブルを利用するものだった。 アクリルと違ってポリエステルはパイルをカットするときの切れが悪く、表面がきれいに整わない。 後加工でシャーリングする時も、加工屋がやりたくないを連発する程やっかいだった。 12越で織って、パイルを寝かせることでごまかすわけだが、普通のモケットには見えない。 最後は、5000mを捨てる羽目になり、会社から自分の好みで開発するな!と痛い目にあった思い出がある。
モケットとは、歯ブラシの様に糸が立ち並ぶように作るもので、上と下の二枚の地となる織物をおりながら、もう一本の糸でつないで中間層のあるような織物をつくり、その二つの織物を2枚におろすように刃をはしらせて作る。 したがって、二つの織物が同時に出来上がる。 (希少性の高い特殊なモケット織機は、一枚の組織にループをつくって、そのループの輪をきることで、歯ブラシの立ち毛のようにすることも出来る。) 500m欲しいといわれると、たった250mで織らなくてはならない。 二つできてしまうので、半分で言い訳。 二つの組織を同時に織るのでスピードも上げにくい。
毛倒れしたところが傷にみえるので、素人にはクレームされるので売れないが、みんなモケットが丈夫なのを知っている。 歯ブラシのように糸がたっているので、摩擦を逃がしてくれる。 破れも殆どない。 喫煙が当時は当たり前だったが、たばこを落としても、直ぐに払えば問題ないし、穴が底まで到達するのに時間がかかるから、タバコの穴のリスクも少なかった。 昭和30年40年は、売れすぎて、創業者が頭を下げて売ってくださいとお願いしないと、自分の会社に製造枠をくれなかったと、耳にタコができるほど聞いている。 頭を下げて仕入をする辛さを忘れるなという話なのだが、仕入れの大切さは身に染みている。 つまり、売れるからもあるが、各モケットメーカーさんの枠をもっていないと、入荷が足りないという背景もあって、サンプル帳がモケットだらけだったわけです。
パイルを分けて、二つの織物にした後は、毛割といって、撚糸しているパイルの糸をほぐしてバラけさせて仕上げる。 撚糸された糸のままだと面積が無い恰好で、モケットに見えない。 加工も大変大事な工程なのだ。 一般に、モケットのアクリル撚糸は、毛割して糸が開くようにしなくてはならないので、専用の糸でなくてはならず、何トンも撚糸して在庫となる。 今は、販売量がなくて、これがしんどい。 やっと、製造しているのにも関わらず、毛倒れをみると、これは不良だという若いバイヤーさんや消費者の声で、売る気をなくす売り子だらけの業界となり下がった。 手作りの良い物には癖があり、それを愛することが出来ない市場なのだから、どうすることも出来ない。
私のその後の、モケットとの縁はロシア。 ロシアのモケットメーカーが技術指導をしてくれというので、名古屋の技術屋さんと二人で、冬のロシアへ2週間。 1年は見たかったが、金は払えないというので、問題個所とどう直せというレポートを渡してロシアの旅は終わる。 工場は雪しかない山の町。 夜はお酒に睡眠薬を混ぜられて気絶。 スタンガンだと思うが、朝ノートパソコンが立ち上がらず、準備してきた情報は破壊された。 ホテルがないから、娼婦のいるような招待所だった。 工場までの交通手段もないから、雪道を一時間歩く。 前にも後ろにも、工場へあるく人たちの群れ。 要するにゆっくりしているのだ。 工場長は女性でハイヒールに薄いドレス。 特権階級で部屋で大した仕事をしていない。 働く人は私の2倍あるような大柄な女性中心で、こちらはジーンズに運動靴。 こういう国なんだと改めて思った思い出。
今回の取材では、保存したい技術はアーカイブにしてあるので必要はなく、職人の魂の部分。 こんなに売れなくても、どうして作り続けるのか、それに我々が応えられないか見つけるためのもの。 私の意図をスタッフが理解して取材をしてくれれば、良い成果がでると信じている。
椅子資材開発30年、日本一の椅子資材を開発する部隊の指揮者が、すわる、ねるの2つの姿勢を通して、商いの目で様々な出来事をつづる、思いあるブログ いすのことなら 椅子の張替えの話題や新規の案件、レザーとは、テキスタイルとは、椅子とは、すわるとは、ねるとは、様々な話題で楽しめます。 あしたは晴れかな曇りかな。
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